RIOS実海域船舶性能研究イニシアティブ

RIOSとは

これまでに蓄積されてきた耐航性理論を統合化することによって、6自由度の船体運動、変動水圧、波浪荷重、風・波による定常流体力などの周波数応答、さらには短期予測、長期予測、実海域での船速低下など、波浪中での船舶性能に関する殆どすべての項目に対して、高い学術レベルの数値計算を可能にする性能予測・評価システムを構築・実用化し、それによって日本の造船技術に対する信頼を堅持してゆくという崇高な目的・目標の下に創始された「実海域船舶性能研究イニシアティブ」がRIOSです。
RIOSでは、日本の造船会社の総意を結集した産学連携による技術開発を行い、日本独自で且つ学術的に世界トップレベルの実海域船舶性能予測・評価システムを提供します。

航海のイメージ写真

第2ステージの活動

実海域船舶性能評価システムの高度化と実用化に関する産学共同研究

これまでの経過・背景

実海域船舶性能研究イニシアティブ(以下RIOSと呼ぶ)の設立に至った経緯については、RIOSの設立者であり第1ステージでの代表でもあった大阪大学名誉教授 内藤 林先生によって幾度も説明されてきた。それによると、これまでに蓄積されてきた耐航性理論を統合化することによって、船体運動、変動水圧、波浪荷重、風・波による定常流体力などの周波数応答、更には短期予測、長期予測、実海域での船速低下など、波浪中での船舶性能に関する殆どすべての項目に対して、高い学術レベルの数値計算を可能にする性能予測・評価システムを構築・実用化し、それによって日本の造船技術に対する信頼を堅持してゆくという崇高な目的・目標の下にRIOSは創始された。
実際には、平成11年度から14年度に、内藤 林 大阪大学教授(当時)をリーダーとして行われた日本造船研究協会第244研究部会(SR244)「実海域対応の実用的船舶性能評価システムの開発研究」での成果を引き継ぎ、充実・拡張させる形で、計算プログラムおよび性能評価システムの整備を行ってきた。
平成19年から4年間の第1ステージの活動によって、RIOSシステムの存在・有効性は造船会社や学協会で十分に認識されている。しかしながらこの性能評価システムには、計算法の改良・バージョンアップ、使い易さの向上などが必要であり、それを達成させて、設計や性能予測・評価に役立てられるようにしないと、韓国、中国との技術力競争に生き残ることが難しくなると懸念される。それを産学連携によって実現させるためには、RIOSの活動を新体制によって発展的に継続させることが是非とも必要である。

産学連携のあり方

現在、日本の造船会社が、中国などの追い上げにもかかわらず国内外から受注を続けることができているのは、日本の学術レベルの高さに基づく日本造船業の技術・品質に対する信頼、いわゆる「日本プレミアム」があるからだと言われている。しかし現在、例えば韓国においては、造船会社、大学(特にソウル大学)、船級協会間の産学連携が積極的に行われており、RIOSシステムと考え方をほぼ同じにした独自の波浪中船舶性能解析システムが構築されつつある。このままでは、数年後には、実海域での性能解析システムの学術レベルにおいても完全に追い越されかねない状況である。
これに対抗し、技術的な差別化によって「日本プレミアム」を堅持・発展させてゆくためには、造船会社の総意を結集した産学連携による技術開発、実用化が不可欠である。ここで言う産学連携とは、まず「学」は学術的に高いレベルの数値計算法を実用化させ、関連造船会社へその成果を提供・還元する。一方「産」は、「日本プレミアム」を堅持するという強い積極的な意識を持って、解決すべき課題の提起を行い、「学」での研究に対する財政支援を行う、という実質的な協力体制のことである。それを本気で遂行して行かなければ、「日本プレミアム」が消滅するのは予想外に早まるかもしれない。

第2ステージの目的・目標

実海域での実際の船舶性能を高精度に推定し、その結果を設計や性能評価に生かせるようにするために、学術的に高いレベルで且つ実用的な数値計算法を具体的な計算プログラムとして実現させる。その充実・拡張した計算プログラムを主体とした、実海域での船舶性能推定・評価システムの利用の促進を図ることにより、設計や性能予測・評価手法における中国・韓国など海外との技術的な差別化を行い、世界的に認知・標準化された計算システムによる客観的評価結果をもとに、日本造船業の技術・品質に対する信頼「日本プレミアム」を堅持・発展させていく。

期待される成果と波及効果

日本独自で且つ学術的に世界トップレベルの実海域船舶性能予測・評価システムを実用化することができる。それによって、日本建造船の実海域性能における優位差を客観的に評価できるようになり、これまでに築き上げてきた日本造船業の技術・品質に対する信頼「日本プレミアム」を堅持・発展させることができる。

研究支援体制

代表者 柏 木  正(大阪大学教授)  
開発グループ
  • 柏木 正 (大阪大学教授)
  • 岩下 英嗣(広島大学教授)
  • 箕浦 宗彦(大阪大学准教授)
RIOSシステムにおける現在のコア計算法(EUT)の問題点解決法の検討、新しい数値計算法の開発研究とそれに基づく計算プログラムの作成、システムの評価、造船会社からの研究課題の抽出を行う。
システムサポート
グループ
  • 三宅成司郎(技術工房テクノ遊)
  • 杉本 健
RIOSシステムのメインテナンス、操作性・使い易さの向上、開発された計算プログラムのインストール、ユーザーからの各種問合せ、質問への対応などを行う。
研究企画グループ
  • 内藤 林(大阪大学名誉教授):特別サポーター
  • 芳村 康男(北海道大学名誉教授)
  • 木原 一(防衛大学校准教授)
  • 末吉 誠(九州大学応用力学研究所助教)など、適宜、大学の研究者に依頼する
システムの開発戦略、企画、評価、開発グループへのアドバイスなどを行う。また、必要に応じて、アドインの計算プログラムの提供、比較計算などを行う。

設置期間

第1期 2年間(2011年~2012年)
RIOS第1ステージで開発してきたシステムのメインテナンスと新しいコア計算法と確率分布を用いた船舶性能予測法のincubation期間
第2期 2年間(2013年~2014年)
新しいコア計算法の実現とその評価
実運航条件を加味した船舶性能の確率分布推定法の実現
オンボードデータ解析との連携

活動計画と具体的な内容

(1)現在のRIOSシステムに対する信頼性、使い易さの更なる向上
船首・船尾の複雑船型に対する計算の安定性の向上
短波長域、およびバラスト状態での波浪中抵抗増加の計算精度の向上、計算法の改良
前進速度あり、出会い周波数=0での前後揺れの計算結果の信頼性の向上
(2)現在のRIOSシステムのコア計算法に関する次期バージョンの開発
高速細長船理論の実用化の検討
R. W. Yeung and S. H. Kim: New Development in the Theory of Oscillating and Translating Slender Ships, 15th Symposium on Naval Hydrodynamics, Hamburg, pp.195-218, 1985
現在、既にこの理論に基づく計算プログラムの開発を計画・実行予定
3次元ランキンソース法の実用化の検討
  • 広島大学 岩下英嗣教授が開発済みの計算プログラムをベースとし、それを実用的に使えるように改良を行う。
  • 周波数領域での3次元線形境界値問題による動的流体力の計算を行う。
  • メモリー影響関数を用いて時間領域での応答が計算できるようにする。
  • Froude-Krylov 力、および静圧の積分による復原力に関しては、船体による攪乱のない波面(すなわち入射波の波面)まで厳密に積分するという非線形計算を行う。
  • これは、Weakly-nonlinear method と言われている実用計算法であり、これによって静止水面上の幾何学的な形状非線形の影響を考慮することができる。したがって、圧力分布、抵抗増加、波浪荷重における非線形影響を比較的合理的に計算・説明することができると期待できる。
(3)現在のRIOSシステムにおける長期予測計算の充実
統計データに基づいた海象・海流の時系列シミュレーション技術の開発
  • 海象シミュレーションについては、確率モデルの改善(多変量自己回帰モデルを導入)と海象統計データ(日本気象協会から提供)の拡充を行う。
  • 海流シミュレーションは、海象シミュレーションの手法をベースに新たに開発する。
    統計データの入手についても検討する。
実海域での船舶性能に関する確率分布関数の推定手法の開発
  • 海象・海流の時系列シミュレーションに基づき、船を計算機上で航海させて、短期時間スケールによる船速低下量などの履歴を求め、その履歴から確率分布を推定する。
  • 主機特性、プロペラ特性、意識的操船、経年劣化などの実運航条件を合理的に取り入れることができる。
(4)オンボードデータ解析との連携
オンボードデータ解析と(3)の船舶性能の確率分布関数の推定との連携を提案する。

運営形態


(1)定期的にRIOS Newsを発行し、メールにて配布する。


  • (2)年1回年度末に、会員全体の運営委員会を開催し、活動の総括と次年度計画を議論する。

  • (3)年に3回、サポート会議を開催し、研究の進捗状況を把握し、解決すべき問題点の提案、その実行方法、研究戦略などを議論する。

  • (4)年2回、講演会、研究発表会を開催する。

  • 第1ステージの活動

    実海域船舶性能研究拠点構想

    設置目的

    船舶が実際に航行する実海域における船舶性能の向上と共に、船舶性能の評価手法を確立するための研究開発拠点を形成する。そして、船舶性能評価の最先端技術が集積された結果として、開発されたプログラムを充実拡張し、その利用の促進を図る。海上輸送における船舶性能評価システムを確立することよって、世界の船舶の性能評価法を一新する。

    設置趣旨

    船舶の性能評価は、実際に船舶が航行する海域が波、風、潮流などの確率的要素によって支配されているために、正しい評価に基づいてなされてきたとは限らない。この事が、優秀な性能を有する船舶であっても、正確に評価として反映されていなく、各国における造船技術の格差を明確にすることが出来ないできた主原因である。実海域における船舶性能の評価手法を確立することによって、造船技術の格差を明確にすることは、日本の造船技術を世界的に明示するためにも必須のことである。ここで開発された評価手法を国際的標準とするために、産学の共同を強め、この分野の世界的研究開発拠点として確立する。

    代表者

    大阪大学 名誉教授 内藤 林(ないとう しげる)

    構成組織

    主に三つのグループから成る。  
    メンバーグループ どのようなシステム開発をするか決める。
    開発の順位付け。
    開発されたシステム評価。
    主に希望する造船企業、関連企業、気象関連企業より構成する。
    研究企画グループ メンバーグループより要望された研究開発項目の開発手法と開発者の選定。
    開発されたシステム評価。
    主に大学の研究者より構成する。
    システムサポートグループ システムのメンテナンス、新しいプログラムの導入、操作性の向上などを行う数名からなる者より構成する。

    設置期間

    • 第1期 2年間(2007年~2008年)
    • 第2期 2年間(2009年~2010年)

    活動の年次計画と目標

    現下の船舶関連の技術は、技術開発された後、それがプログラムの形で固定化され資産化される。過去に共同開発されてきたプログラムの資産化を図るとともに、新しい技術をプログラム化し蓄積してゆくシステムを確立する。
    過去に開発されてきた実海域船舶性能に関するプログラムを多くの方々に利用できるように改良して、それを当面大阪大学のサーバーに置き、共同開発に参加してきた認証を有した機関にそのプログラムの使用許可を与える。
    このIDC(Internet Data Center)システムをRIOS(The Research Initiative on Oceangoing Ships)と名づける。

      2006年度 IDCパイロットシステムを完成させ、そこに搭載するプログラム等を定める。IDC搭載プログラム使用に係る規則を策定する。IDCの試用を開始する。IDCに搭載するプログラムの拡張を図りつつ、新しい研究分野を開拓する。そして、そのプログラム化を行う。第1期2ヵ年計画を策定する。
    第1期2年間  2007年度 参加団体以外の各団体にも使用できるようその利用範囲を広める。この2カ年間の成果等の検討を行い、それ以後の発展方向を策定する。
    2008年度 2007年度の活動を継続する。
    第2期2年間  2009年度 SR244で構想されたシステムの完成を目指すとともにスラミング、スロッシング等の分野への拡張可能性をさぐる。
    2010年度 2009年度の活動を継続する。

    運営形態

      (1)年一回3月に会員全体の運営委員会を開催し、一年間の活動の総括と次年度計画を議論する。

      (2)三ヶ月に一回サポート会議を開催し、全体の研究状況を管理把握し新しい方針を提起する。

      (3)年に二回講演会、研究発表会を開催する。これは会員外、一般の方々の参加も可能なものとする。

    運営形態図